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IN FLAMES – 炎と灰の追憶 – - 4

第04話 餌付けされる狂犬

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 ブロスが猟犬部隊に配属されて、一ヶ月が経った。  統都ラガシュの治安維持のため、各地で革命軍 ──統都ラガシュに不満を持ち、民間人を巻き込んで、武力で要求を通そうとするテロリストの集団 ──と戦っている。

 革命軍のライドギアの 操縦核《ミッド・ギア》にいるはずのライダーは、言葉も発さず、会話も困難。倒すしかない。討伐後に操縦核《ミッド・ギア》を確認すると、本人死亡により大昔に破棄されたはずの無人ライドギアであるか、統都ラガシュの行方不明者の遺体が乗っている場合が多かった。

「革命軍のライダー、また行方不明者だったんでしょう?」 「どうして、革命軍なんかに……捕まって、洗脳でもされたのかしら」

 統都ラガシュの市街地を行き交う 住民が、ひそひそと会話している。  住民の傍らには、球体型のデバイスが浮いている。

 住民の意識はデバイスに繋がれており、統都ラガシュの善良な住民としての行動を、デバイスが逐次命じる。

 不穏分子と判断される思考や感情を感知すると、デバイスがゆるやかにそれを矯正し、善良な住民の感情と置き換える。

 デバイスが、ラガシュの住民の意思や、行動のすべてを決めているのだ。

 時折、デバイスの故障で、自由意志を発現させた住民が、行方不明になることがある。その行方不明者の集団が、革命軍なのではないかといわれている。

 革命軍の主張は『住民の自由意志を尊重しろ』というもので、『デバイスの破壊、およびデバイスを管理するマザーコンピュータの破壊』を要求している。

 デバイスによる統治に馴染みきってしまった住民は、日常の小さな選択から、善悪の判断、思想信条にいたるまで、意思決定を全てデバイスに委ねている。デバイスを失ったらなにをしていいかわからなくなる者が大半だった。

 生活の全てをデバイスに頼り切っている住民と違い、臨機応変な場面で迅速な意思決定が求められる役職についている軍人などは、デバイスの適応は免除されている。

 ブロスは、統都ラガシュのために戦うことを条件に、自分の意志を許されている。  デバイスに管理される力なき住民を、ラガシュの治安を保つ軍人として、革命軍から護っていかなければならない。

 「おい、そこでなにやってんだお前」

 ブロスはこのところ、制御できない苛立ちと、破壊衝動、激しい頭痛に悩まされていた。元々は争いごとが苦手だったのに喧嘩をし、矛先のない怒りがふつふつと湧いて、些細な事でキレてしまう。

 ブロスが足を運んだ先の、市街地から外れた裏路地。 最近、街で幅を利かせている傭兵組織『不吉なる黒猫』に所属する男が、住民に絡んで金をまきあげていた。ブロスの苛立ちが、瞬間的に頂点に達する。

「見ればわかるだろ? デバイスの奴隷から金まきあげてんだよッ、おぐっ!?」

 ブロスは間髪入れずに、ガラの悪い男の腹部に蹴りを入れていた。

「その金、そいつに返して、消えろ」

 ブロスは破壊衝動が抑えられずに暴力をふるうことが多くなった。ただ、振るう相手は選んでいた。主に、住民に危害を加える者に対して。

 傭兵の男と、数発殴り合う。頬に拳を食らったが、ブロスが優勢だった。

「クソッ、いってえなこの野郎!! お前、このへんで世直しポリスしてる猟犬部隊の狂犬眼鏡野郎だろ。猟犬部隊の弱えやつに報復してもいいん…!? ぐぼっ!!」

 負け惜しみと恫喝を最後まで言わせてもらえずに、ブロスの蹴りを食らう男。

「消えろ。5秒以内に消えろ。できないなら、5秒後にまた蹴りを入れる」

「ちっ! とっとと革命軍にやられちまえよ!」

 傭兵の男はそう言って、まきあげた紙幣を住民に押し付けると、そそくさと去っていった。

 金をまきあげられていた住民は、暴力的な傭兵と、暴力的なブロスに戸惑っていた。ブロスが羽織っている国王軍の制服を見て、ブロスが助けてくれのだと判断し、安心したようだった。

「あの、軍人さんですよね……いまのと、いつも街を守ってくれてあり……、あっ ──」

 住民は、傍らに浮くデバイスの指示に促されるまま、小さな声で礼をいった。  ブロスは、その礼を聞き終わる前に、その場から立ち去る。

「ブロスくん、また喧嘩してきたんでしょ。その頬のあざは何?」

 ブロスが市街地を抜けて足を運んだのは、BAR『cage(ケージ)』と呼ばれる酒場だった。傭兵や軍人が愛用している店だ。 住民の利用客も多く、賑わっている。

 国王軍の制服を着たブロスが店に入ると、席に座っていた 住民が、街を防衛する軍人への親しみを込めて席を譲ろうとする。ブロスはそれを片手を挙げて静止し、自分を呼び出したアリィ隊長のいる席へ歩いていく。

 現れたブロスを一瞥すると、アリィ隊長が目聡い一言を放ったのだった。

「別に」

 ブロスがぶっきらぼうに応える。すでにイライラしていた。アリィ隊長を拒絶するように、その場で腕を組んで、そっぽを向く。

「別にじゃないでしょ。この間も、そのまた前も、どうして手が出ちゃうかな……。匿名のクレームがきてるんだよー。 住民からのお礼の声も来てるけど。なんで最近、そこらで暴力的な世直しポリスをやってるの? 理由を聞かせてくれる?」

 アリィ隊長が、グラスに入ったカクテルを煽りながら、ブロスに訊いた。

「むかつくからですよ。全てが。でも、殴っていいやつしか殴ってません」

 アリィ隊長が頭を抱える。

「もうッ! あと君、発言が過激すぎて、SNSでも炎上してるでしょ。世直しポリスだからって、なんでもかんでも噛みついて。炎を操るからって、SNSを炎上させないの! イライラしたら投稿しない! 身元特定されて軍にクレームきてるんだから」

「叩くやつも居るけど、賛同するやつも多いですよ。アリィ隊長はかたくなに、俺をフォローしてくれませんけど」

 ブロスが冷酷なまなざしを、アリィ隊長に向ける。

「君は、頻繁に炎上した挙げ句、ネットバトルで巻き込みリプしてくるでしょ!! あたし、そういうの怖いの!! 美味しいご飯の写真だけアップしていたいの!!」

「なんかやたらいいもん食ってますよね。飯テロですよ。ベイとヴァラッドはフォローしてくれるのに、アリィ隊長は、自己保身で俺をブロックする……」

「ブロックはしてないでしょ!! いじけないの、もう!! いい? せっかく厳しい訓練を経て、ラガシュの軍人になれたのに、こんなことで処罰を受けて除隊なんて、君のためにならないからね」

「……」

「それに、前にいってたけど、いつも頭痛がするんでしょ。軍医には診てもらったの?」

「……疲れとストレスじゃないかって、いってましたよ。でも俺、ストレスとか皆無ですから」

「でしょうね! さんざん殴って発散してるもんね君は! もうーッ!! 配属されたときは、真面目そうな、穏やかな子だと思ったんだけどなあ……」

 アリィ隊長が、頭を抱える。

「真面目で穏やかですよ、俺は。ただちょっと、牙を剥く時があるだけです。悪人に対してだけ」

「最近、牙を剥きっぱなしじゃない? ほんとうに、大丈夫? なんだか、本来の君と、逆のことをしているような印象を受けるんだけど……」

「……前はこうじゃなかったですね。暴力は嫌いだった。殴られるのも嫌だったし」

 ブロスが俯いて応える。アリィ隊長が、心配そうにブロスを見つめる。

「……隊員の皆もびっくりしてて。レリムは面白がって、狂犬眼鏡くんとかいってるけど、ベイも、ヴァラッドも、ヴェルドも心配してるんだから。皆、普通に仲良くしたいのよ。君と。君がいつもピリピリしてるから、遠慮してるだけで……」

 アリィ隊長が、運ばれてきた料理をブロスに勧める。アクアパッツァとサラダ、仔牛のロースト、トマトソースのパスタだった。ブロスは急に空腹を感じだした。アリィ隊長が、テーブルの前に立ったままのブロスに、座るように促す。

「せっかくご縁があって、猟犬部隊に配属されたんだから、除隊されてほしくないの。いい子にして。ね。ご飯、追加で好きなの頼んでいいから。君、官舎にいるんだっけか。食事もちゃんと食べてね。不摂生してたんじゃ、頭痛も治らないし」

「アリィ隊長が、俺を餌付けしようとしている…」

 ブロスが、野良犬のような警戒心を見せた。

「そーだよ。いつになったら懐いてくれるのかなっ。この暴れんぼうワンコ君は! さ、食べよう! 料理が冷めちゃう」

 アリィ隊長が料理の写真をデバイスで撮った。

「SNSにアップするんすか」

「うん。そうだ君に宿題だしていい? 一日一個でいいから、君の気持ちが穏やかなときに、穏やかなつぶやきをしてみて。そしたらあたしも、安心できるから」

「俺はいつもイライラしてますけど、一個でいいなら……」

「よし、えらいぞ! ちょっと怖いけど、君をフォローしよ。ただし、あたしを巻き込んでのネットバトルはおよしになって」

「わかりました」

 ブロスがデバイスを確認すると、SNSでアリィ隊長にフォローされていた。嬉しさを隠しきれないブロスは、にやりとした。

「わ、笑ってる? なんで?」

「アリィ隊長、俺だけフォローしてくれなかったから。嫌われてるかと思ってた」

 ブロスが横を向いて、小声で応える。

「全然、嫌いじゃないよー。君があまりにも尖ったナイフすぎてね、反抗期真っ只中の中学8年生的な趣があるから、怖気づいちゃっただけ」

 アリィ隊長がにっこり微笑んだ。

「俺もう20歳ですよ。よって反抗期ではない。俺の反逆はもっと崇高なもので、社会正義と、俺の仁義のマリアージュが、触れるものをみな切り裂くだけです」

 ブロスが真顔でそういうと、アリィ隊長が食べていたパスタを噴き出す。

「大丈夫ですか」

 ブロスが問いかける。アリィ隊長はしばらく咳き込んだ後、ブロスの頭を撫でた。

「反抗期の子は皆こうなのかなと思ったら、慈しみたくなっちゃった。さ、たんとお食べ。食べたらいい子にするんだよー」

 店員がおもむろにバナナを2本持ってきた。アリィ隊長は嬉しそうにバナナの皮をむいている。ブロスは、アリィ隊長がバナナを頬張る姿をデバイスで撮った。

『カリウムがほしいか。与えよう バナナ《力》を。~ 全てを超えし者《アリィ隊長》~』

 ブロスは、アリィ隊長の写真に戦闘民族的なエフェクトを施し、SNSに投稿した。ベイからいいねがつき、ヴァラッドが「コラ素材にされとる」とコメントしてきたので、「 宿題《さだめ》なのだ…」と返信した。

「さっそく穏やかなの投稿してくれたのー? うほっ、あたしゴリラみたいじゃん」

「これで安心できるんですか、アリィ隊長」

「うん、若干のコレジャナイ感はあるよ。ブロスくんて、ネタ系ハガキ職人の末裔? いたよね、学級新聞とかにこういうの書く子。現存する最後の使い手なの?」

「そういう心を忘れたくないなって」

「わかる。後世の子どもたちにも伝えて」

 アリィ隊長がブロスにもバナナを勧める。ブロスがバナナを受け取ろうとした時、二人のデバイスが鳴った。

「ここの奥のテーブルでヴァラッドたちも飲んでるんだって。皆、ブロスくんと仲良く飲みたいんだよ。一緒に行かない?」

 アリィ隊長がブロスに促すと、ブロスはおずおずと席を立った。

「……行きますよ」

「そうこなくっちゃね!」

 アリィ隊長が嬉しそうに微笑んで、ブロスの背を軽く叩く。賑わう店内を奥のテーブルまで歩いていくと、ヴァラッド、レリムがテーブルに座って飲んでいた。ブロスとアリィに気づくと、親しげな笑顔でヴァラッドがこちらへ手を降った。

 この店はセルフサービス色が強く、テーブルで注文の到着を待っていても良いのだが、自分でカウンターに行き、タブレットに注文を入力し、好きな酒を調達してくる方が早い。

 ブロスが飲み物をカウンターに受け取りに行く際。ブロスは人相の悪い二人組に絡まれた。

「おい狂犬眼鏡」

 ブロスは一瞬、自分のことを指しているのかわからなかったが、二人組の片割れの男を一瞥した。

「てめえが一人で突っ走るせいで、俺たち傭兵が商売になんねえだろが」

「戦場は我々の狩場だ。足並みを揃えろといっている」

 ブロスが二人組の人相から記憶をたどる。『不吉なる黒猫』、通称黒猫部隊のトバリとショウザ。

 猟犬部隊に配属されて一か月。ライドギアによる日々の模擬訓練のおかげか。ブロスは瞬発力の強い戦い方に磨きがかかり、部隊の先鋒を任されるほどになった。猪突猛進にみえて、その実、場を見渡して効率よく敵を撃破する冷静さがあるので、その的確な判断力も買われていた。

 しかし、それを快く思わない者もいる。王国軍が相手にしている革命軍の討伐を主に商売にしている傭兵だ。治安維持のために民間人から雇われ、革命軍から街を守る任務の場合もある。戦場を同じくする、猟犬部隊の先鋒ブロスに敵を全滅させられると、仕事にならないと憤って絡んできたのだ。

「おい聞いてんのか、王国軍のポチ公ォ!!」

 ドレッドヘアが印象的な体躯のいい男、トバリがブロスの胸ぐらを掴む。

「無視とはいい度胸だな」

 トバリよりは冷静に見える、長身痩躯の長髪の男、ショウザが低い声を出す。ブロスの頭痛と苛立ちがより一層強くなる。ブロスはトバリに胸ぐらを掴まれたまま、微動だにせず、トバリとショウザを睨みつけた。

「戦場は狩場でも、金儲けの場でもねえよ。ノロマが。俺たち(猟犬部隊)は戦争を早く終わらせるために戦ってんだ──足並み揃えんのは、てめえらの方だよ!!」

 ブロスは間髪入れずに、トバリに蹴りを放っていた。突然のブロスの暴力に眉をひそめるショウザ。トバリは蹴られた顔面から鼻血を出しながら、ブロスに猛った。

「ポチ公が気合い入れたところで、戦争が終わるわけねーだろバカ! 兄貴! こいつ頭ンなかネバーランドだぜ!!」

「ああ。寝言ぬかすなら、おねむの時間にしてやろう」

 店内で、ブロスとトバリとショウザによる乱闘が始まってしまった。 常連客はこの手の騒ぎに慣れているのか、横目でちらと状況を目視する程度の反応だ。

「アリィ隊長ぉ。狂犬眼鏡くん、また暴れてるんですけど……。アリィ隊長の餌付け──狂犬眼鏡くんを良い子にしよう大作戦は水泡に帰したんじゃないですかあ? どうしますぅ、あれ──」

 離れたテーブルでおつまみのナッツを食べながら様子を見ていたレリム。

「ぐぬぬ……まったくブロスくんは!! しょーがない!いっちょー助けにいくかぁ!」

 アリィ隊長はバナナを片手に席を立つ。

「えっと……その、バナナは?」

 レリムが不思議そうに、アリィの持つバナナを一瞥する。

「このバナナでなにとぞ!! なにとぞ!! とバナナで成仏していただく作戦!!」

 アリィ隊長が曇りなき眼差しで言い放つ。

「いや、作戦て! 相手ゴリラの霊じゃないんですからっ」

 レリムが的確なツッコミを入れる。

「その作戦、面白そうなんで、おれが行ってこようかな」

 テーブルの席で様子を見ていたヴァラッドが、アリィ隊長の持つバナナをひょいと手に取る。そのまま、躊躇なく乱闘現場へ向かおうとする。

「おっ、やってくれるかねヴァラッド君! 任せた!」

 乱闘現場では、ブロスがトバリに羽交い締めにされていた。

「ヨーシ兄貴、そのまま押さえてろよ……」 「離せよ、クソヤロォ!!」

 ブロスがショウザに腕を押さえられながら悪態をつく。

「っせんだ、ボケ!!」

 トバリが重い拳の一撃をブロスの顔面に放つ。それからは一方的な戦況で、ブロスはトバリとショウザに暴行を加えられている。

「おい、さっきまでの威勢はどうした!? さてはおめえ、生身の喧嘩は弱えんだな!? ほらっでっかい声で負けましたワンって言えよ、ポチ公!!」

「……ッ」

「フン。勢いだけか。放っておいても、早々に戦場で散るタイプだな」

 ショウザが冷たく言い放つ。その時、ブロスに暴行を加えるトバリを肩を引き、制止する者が現れた。

「──そのへんで。うちの隊員が先に手を出したことはお詫びします。お互い、次の戦闘を控えた大事な身なんでね。喧嘩で消耗してもらっちゃ困りますよ、ウチの猟犬くんも、黒猫さんも、ね」

 ヴァラッドは、柔和な表情を崩さず、だが全く笑っていない目で、物怖じせずに仲裁に入る。

「チッ! だったらそう教育しとけや! ムカつく面しやがって!!」 「弱いものイジメは輿が乗らんしな」

 トバリとショウザは、悪態をつきはしたものの、意外なほどあっさり立ち去った。ヴァラッドの瞳が放つ、底しれない圧に触れていたくなかったからかもしれない。

「大丈夫か? あの手合は先に手ぇだすとしつこいから用心しろよ──それにお前、途中からわざと殴られたろ? ずいぶん大人しかったけど」

 ヴァラッドはブロスを助け起こすと、目聡く尋ねた。

「……ついカッとして、先に蹴っちまったけど。アリィ隊長と、喧嘩しないって約束したから。ウチ(猟犬部隊)にはアリィ隊長もレリムもいるし、あいつらはクソヤロォだし、女子供に報復されたら困るから……ごにょごにょ」

 ブロスは言いにくそうに、ボソッと答えた。ヴァラッドが少し驚いたような表情をした後に、微笑む。

「そっかそっか。お前なりに気を使ってくれたのね。ブロスくんにはアリィのバナナをあげようね」

「いらんよ!! 隊長のバナナなど!!」

 ヴァラッドはにこやかに、居心地悪そうなブロスの肩を撫でた。

「でも……バナナは好きだから……」

 ブロスはヴァラッドから受け取ったバナナを片手に、鼻血を出していた。

「おい、鼻血出てるぞ! つか、いまの流れで鼻血出すとこあったか? そんなにバナナ嬉しかったの……」

「違う! ぶん殴られまくって、ちょっと遅れて鼻血が出ただけだ!! 帰る!!」

 ブロスは鼻血を出したまま、BAR『cage(ケージ)』の出口に向かって走り出した。

「待て待て待てッ!! リードから離れた犬か、お前は!! みんなと親睦を深めるんじゃなかったのか──」

 ヴァラッドはため息を付いて、店内から走り去るブロスを苦笑いで見送った。

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