夢 幻 劇 場

[個人創作ブログ/イラスト/小説/漫画・他]

IN FLAMES – 炎と灰の追憶 – - 3

第03話 部隊配属と模擬訓練2

≪前の話へINDEX次の話へ≫

 屋外の模擬訓練場。隊員たちがライドギアを召喚し、遠方にある的に呪文による攻撃を正確に当てたり、他の隊員とペアを組んで、革命軍とのライドギア戦を想定した戦闘が行われる。

 お互いの能力を把握し、特性を知り、実戦の戦闘時に協調・連携しやすいようにするのが目的の一つだ。

 ライドギアとは、魔石のはめられた指輪から召喚される魔術ロボットであり、人型巨大魔術兵器である。

 ブロスたちエドゥアルドの民は、ライドギアを召喚するための、エドゥアルドの指輪をその手に握って生まれてくる。個々のライドギアの姿は、召喚者の精神を具現化したものだといわれている。そのため、修復が困難なほどライドギアが激しく損傷すると、召喚者の記憶に一時的な欠損が起こったりと記憶障害が残る。

「おっ。模擬訓練、僕とペアなんだね~。よろしくね、ブロスとインフェルノ」

 革命軍とのライドギア戦を想定した模擬訓練。ブロスとペアを組むことになったのは、石を操るライドギアを扱うベイだった。アイ・ウィンドウに、人の良さそうな笑顔が映る。訓練中なのに、ハンバーガーを食べているのが見えた。

 ベイのライドギア、テイヴァスは、石を思わせる頑健ないでだちに、ベイのような恰幅の良い骨太の装甲が施された重量級のライドギアだ。ベイによると、その機体の重量ゆえ、防御力は高いが、俊敏な動きはできないらしい。

 対してブロスの操るインフェルノは、黒鋼のスマートな装甲に、炎を発現させる槍を携えている。無駄の削ぎ落とされたフォルムで、動きも素早い、スピードタイプのライドギア。ベイのテイヴァスと対照的といえるが、相性は良さそうだ。

「よろしく。ベイ、テイヴァス」

 ブロスはベイに短く応えて、前方の敵のペアを見据える。  模擬戦のルールは、『対戦相手のペアのうち、一人を戦闘不能にさせる』こと。

 前方にいるのは、水を操るライドギア、ツァンラートを扱うレリム。周囲に水の塊が浮き、流線型の意匠、白と水色のカラーリングが美しい、近代的なライドギアだ。

「アリィ隊長も意地悪ね。新人クンの炎のライドギアと相性の悪い、私の水のライドギア、ツァンラートを戦わせるなんて。一瞬で勝敗が決まっちゃうんじゃない?」

「甘いなレリム。相手が俺たちなのも、アリィの意地悪なんかじゃないさ。ブロスとベイを組ませたのは、弱点を補い合うためだと思うぞ。油断は禁物だ」

 レリムにそう応えたのは、プラズマを操るライドギア・サイレイドを操るヴァラッドだ。深紫の、アスリートのように全身が引き締まったフォルムのライドギアに搭乗している。 操縦核《ミッド・ギア》で、スキットルに入れた酒を飲んでいるが、冷静さを感じさせる声音でレリムをたしなめた。

「わかりましたぁ、ヴァラッド副隊長~。これが終わったら、レリムと一緒に御飯にいきましょうよっ。一撃で終わらせてあげるから、いくよ、ツァンラート!!」

 レリムはハートの浮かんだ目を、アイ・ウィンドウの先のヴァラッドに向け、一撃終了宣言をする。素早い動きでツァンラートを操縦すると、前方のブロスとベイに向けて、いきなり大型呪文を放った。

「 水流の青薔薇《アクア・ローゼス》!!」

 レリムの駆るツァンラートが、水流の柱を茨の蔓ように何本も噴出させた。ブロスの操るインフェルノを、水の茨で絡め取ろうとする。

「この水量の前では、どんな炎を放とうと一瞬で消火しちゃうわよ!  水流の鎌《アクア・サイズ》!」

 無数の水流の茨と共に、大きな水の鎌を生成し、インフェルノの首を狙うレリム。

「蒸発させれば、水なんぞ怖くねえよ!  灼熱の焼却弾《レイジング・インフェルノ》!!」

 ブロスは弱点属性の水に怯まず、ツァンラートが放った呪文に匹敵する、爆炎の大型呪文を放った。火炎の爆発と、水流の茨がぶつかりあい、水蒸気となって消滅する。短気なレリムは、それをみて頭にきたのか、さらに強力な水の呪文を放つ。

「可哀そうだけど溺れるがいいわ! 水流の壁《アクア・フォール》!!」

 ブロスとベイの目前に、津波にも似た水の壁が迫る。水量からみるに、先程のように蒸発もさせられないだろう。

「下がってブロス!  大岩の盾《ロック・シード》」

 ベイの操るテイヴァスが、水の壁を遮る巨大な岩の盾を発現させ、水の壁を防ぐ。次の瞬間、水の中から、大きな岩の足場が次々と出現し、レリムの奥にいるヴァラッドの方角まで、岩の足場が続いた。

「レリムが相手だと、君は分が悪い。君は動きが素早いから、足場を移動して、ヴァラッドのサイレイドを攻撃するんだ!」

 ベイはそういうと、レリム操るツァンラートの頭上に巨大な岩を召喚した。水で防がれることを見越した、とんでもなく大きく、細長い岩の杭だった。

「うっそ、ツァンラート! 防いで!!」

 水の壁を使おうにも、杭のような形状の岩の間を、水は流れていってしまう。岩は容赦なくツァンラートを狙う。岩の杭は、ツァンラート本体を外れ、ツァンラートの機体をギリギリに囲うように落とされた。

 ツァンラートの中のレリムは無事だ。戦闘不能にはなっていない為、まだ勝敗はつかない。

「優しいな、ベイは」

 ヴァラッドはそうつぶやくと、水上の岩の足場を移動し、目前に飛翔してきたインフェルノに注意を向けた。

「悪いけどやられてもらうぞ、ヴァラッド!!  爆炎《アグニ》!!」

 そう操縦核《ミッド・ギア》から叫ぶブロスは、インフェルノの槍から、灼熱の火炎を放った。レリムの技を消滅させたほどの火力を持つ、インフェルノの炎。直撃すれば、ただではすまない。

「俺に炎は、やめといたほうがいいと思うけどな」

 ヴァラッドはほとんど表情を変えず、口元だけでにやりと笑った。

「なっ ──!?」

 次の瞬間、炎に包まれていたのは、ヴァラッドではなくブロスのほうだった。

「炎はプラズマの一種だ。お前の炎が強力なほど、火炎を操られて手痛いカウンターを食らうのさ。 ── 乱閃《ストラ》!!」

 ヴァラッドの操るサイレイドが、周囲に火球のようなエネルギー体を浮かべ、無数の青白いプラズマ光閃をブロスに放つ。すべてのものを断ち切る強力な光閃を、正面から食らうインフェルノ。

「ぐっ!!」

 インフェルノに伝わる衝撃と激痛で、くぐもった声を洩らすブロス。無数のプラズマ光閃がインフェルノを狙い、ヴァラッドは、操縦核《ミッド・ギア》にいるブロスにとどめを刺そうとする。

(くそっ。ツァンラートにサイレイド、どっちのライドギアも炎に耐性があるやつじゃねえか。ここまでか ──)

 ブロスがそう思った瞬間。

 ヴァラッドの目前に、ベイの操るテイヴァスの岩の杭が落とされ、サイレイドの腕が切断される。同時にインフェルノの周囲に盾の大岩が隆起し、プラズマの攻撃からブロスを護った。

「テイヴァスの岩の盾には、プラズマも効かない!! ブロス、炎の呪文ではなく、槍を使うんだ!」

「槍で? わかった」

 炎を纏わないインフェルノの槍などたがかしれているとブロスは思いながらも、他の手段も思いつかないので、ベイの言う通り、槍でサイレイドの操縦核《ミッド・ギア》を狙う。渾身の力で操縦核《ミッド・ギア》を貫こうという目算だ。

 サイレイドは、腕を吹き飛ばされながらも、インフェルノに狙いを定めてプラズマ光閃を放つ。

「悪あがきを…… 乱閃《ストラ》!!」

 放たれる光閃を後目に、インフェルノの機体と、インフェルノの槍に、テイヴァスの石の装甲が音を立てて合成されてゆく。

 インフェルノの機体と槍が、石の装甲を纏った力強い形状になる。金色に光る石鎧が、インフェルノに集中砲火されたプラズマの光閃を相殺した。

( ──なんだ、この石は!?)

 ブロスはそう思いながらも、サイレイドの 操縦核《ミッド・ギア》を、金色の石を纏った槍で貫く。

 次の瞬間、空間に光が奔る。  ヴァラッドの戦闘不能により、サイレイドの召喚が解けた。

『はいっ。そこまで~』

 間延びした、アリィ隊長の声が響く。

『ヴァラッドは戦闘不能。苦手属性をねじ伏せ、ブロス、ベイのペアが勝利でーす。おめでと~!! ヴァラッドは、ヴェルドのとこで治療ね~。一旦、ライドギアの召喚を解いて、反省会をしよー』

 ブロスはほっと安堵したような、納得いかないような不思議な気持ちになった。 インフェルノの召喚を一旦解除し、とりあえず疑問に思ったことを、同じくテイヴァスの召喚を解除し、ブロスの傍らにいるベイに訊く。

「お疲れ。ありがとな、お前のおかげだよ。なあベイ。インフェルノや槍にくっついてきた石ってなんなんだ?」

 ちょうど、ハンバーガーを食べ終わったベイが、親指についたソースをぺろりと舐めながら、にこりと笑って答える。

「あれはねえ。ヒヒイロカネっていう鉱石だよ。プラズマ切断機でも切れない鉱石。僕は石であれば、種類を把握できる範囲なら、なんでも召喚できるんだ」 

「なんでも!? すげえなベイ!! テイヴァスも!!」

「へへっ。照れるね~」

 ブロスは素直に感嘆し、ベイの背をペチペチと叩き、ベイに握手を求めていた。 ベイは嬉しそうに笑っている。

 治癒の風を操るライドギアのゼファーが、そんな二人の様子を見ながら、負傷したヴァラッドの治療をしている。

「ごめんなさぁい、ヴァラッド副隊長ぉ~!! あの二人、あんなに強いと思わなくてえ!!」

 レリムが、両手でごめんなさいのポーズをしながら、傷の手当をするヴァラッドに涙目で謝っている。

「いいって、いいって。入ったばっかのときは、こうやって勢いをつけるのがいいんだよな」

 ヴァラッドはそういって、何事もないような爽やかな表情で笑った。黙って模擬戦を見ていた、部隊最年長の隊員ヴェルドが、アリィ隊長に話しかける。

「……隊長の予想通りになったな」

「ふふ。ベイとブロスは、いいコンビになると思ったんだよね~」

 これにて、ひとまず対人のライドギアの模擬戦は終わった。

(くそっ、いつまで続くんだ、これ ──!?)

 ライドギアによる訓練が再開され、隊員たちからライドギアの呪文による攻撃を受け続ける(ライドギアの耐久力を上げるため)ブロス。先程の戦闘で疲れているのに、まだ訓練は続いていた。日も暮れて、屋外模擬訓練場は、ほぼ夜になっていた。

 ブロスのライドギアは、破損するたび修復呪文がかけられる。修復したらまた攻撃をくらうという、耐久訓練という名の苦行が延々と続く。

 ライドギアを召喚する気力が、ブロスから尽きそうになってきたときも。

 アリィ隊長は恐るべき精神力と体力で朗らかに笑い、疲弊するブロスに「次いくよー!」と微笑んで、オクタピアから新たな 雷《いかずち》の呪文を元気に叫ぶ。その 雷《いかずち》の呪文がまた、無慈悲な攻撃力で、ブロスは涙が出そうだった。

 ブロスに呪文攻撃を加えてくる、 操縦核《ミッド・ギア》のアイ・ウィンドウに映った他の隊員たちの表情にも疲労と、ブロスへの同情が見え隠れしていたが、アリィ隊長は終始、元気いっぱいだった。アリィ隊長からの終わりの号令が、かかる気配がない。

 ライドギアの操縦や呪文には、操縦者の精神力を多大に消費する。精神力が尽き、体力も消耗すれば、いずれ気を失ってしまう。そうなれば、ライドギアは姿を保てなくなり、召喚は自動的に解除されてしまうのだ。

(一体、どういう体力してんだ、このひとは……は、早く終わってくれ…!!)

 ブロスがアリィ隊長に対して、心のなかでひとりごちる。模擬訓練開始前の、アリィ隊長の女神のような笑顔など、二度と信じないぞと固く誓ったのだった。

≪前の話へINDEX次の話へ≫