夢 幻 劇 場

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第06話 優しい悪魔達

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 目が覚めると、僕は賛美歌が響く教会の中にいた。背中と腕の傷は応急処置が施してある。
僕が広い天井を見つめていると、黒い服を着た人影が近づいてきた。

「大丈夫ですよ、もうすぐカーカスとアンジェラが来ますから」

 ベッドで横になる僕の手を優しく包んで、枯れた目つきのおじいさんが言った。

「ここは天国?」

「いいえ、罪人の街です。」

 おじいさんは苦笑して言った。

 次の瞬間、教会のドアがけたたましく開かれ、僕は首だけ動かして音のした方を見る。 看護婦のアンジェラと、山羊のマスクをつけていない医者のカーカスがいた。 驚いたことにカーカスは、僕と同い年くらいの子供だった。アンジェラの後ろに隠れて、僕をちらちらと見ている。

「坊や、大丈夫かい!?誰にやられたんだ、アモット兄弟か!?
 ドクターなんて、山羊のマスクつけるのも忘れてすっとんできたんだからね
 ったくひどいことしやがる、すぐに治してあげるよ……」

 アンジェラが駆け寄ってきて、僕を抱き起こした。僕は思わず涙が出た。

「……泣かないで……」

 ドクターカーカスが、低い小さな声で言うとガーゼで僕の涙を拭ってくれた。どうして、ここの人達はみんなこんなに優しいんだろう。僕の涙は余計に止まらなくなった。僕の腕にさりげなく麻酔を打ったカーカスが、おやすみと呟いた声が聞こえた後、僕はまどろみの中で意識を失った。

 目が覚めるとイングウェイとリッチが目の前にいた。二人とも形容しがたい表情をしている。

「怪我はカーカスとアンジェラが治してくれたぞ。
 ちょっと痕が残っちまったけど、男なら気にすんな」

 イングウェイが乱暴に、僕の頭を撫でた。起き上がってみると、背中と腕の痛みはもうなかった。

「戻ってきたら君がいないから吃驚したよ。
 地下に向かって血の跡が残ってたから、まさかと思って来てみたら案の定ここにいた」

 リッチが泣き笑いのような顔で言った。

「ごめん、リッチ」

 僕も泣き笑いのような顔でリッチに答えた。

「アッサム、君は落ち着くまでこの街にいるといい。
 あの家に、すぐ戻るのはつらいだろう。
 CDショップの店長には、私が事情を話しておくから。
 もちろんこの街の事は伏せておく。私が預かっていると話しておくよ。
 帰りたくなったら、私に声を掛けてくれ。
 私はいつも夕方、ここに見回りしに来ているからね」

 そう言うと、リッチは口元だけで、いつもの淡泊な笑顔を作った。

「そんな事していいの?」

 僕は心配になってリッチに聞いた。

「私がもっと早く着いていれば、君のお母さんは助かったかもしれない。
 半分は私のせいだ。保安官が聞いてあきれるよ。
 あと……拾ったんだが、君のかい?医務室のベッドに落ちてたよ」

 リッチが、微かに血痕の付いた華のペンダントをシャツのポケットから取り出して言った。

「これ、CDショップの店長にもらったんだ。
 帰ったら母さんにプレゼントしようと思って……。
 けど、わ、わた…渡せなかったよ……」

 僕は涙が溢れそうになるのを、必死に我慢して言った。

「悲しいときは泣け、ガキが妙な意地張るな」

 イングウェイに頬をつねられ、僕は大声泣いた。

 僕は泣き疲れて眠ってしまったらしい。気が付くと、イングウェイの部屋らしきベッドの上にいた。

「起きたか。ここにいる間は、オレのとこに泊まっていいからな」

 イングウェイは革のソファーに座り、雑誌を読む顔を上げ、起きた僕に向かって言った。

「肉屋のラウドからだ。
 あの野郎お前を担いできたオレを見て、誘拐はやめとけとかぬかしやがったんだぜ。
 事情話したら、スマンとかほざいてフライドチキンよこしたから食っとけ。俺のサラダもな」

「ありがとう……」

 まだ暖かい紙袋に入ったフライドチキンと、イングウェイが作ってくれたサラダを食べた。
 どちらも涙が引っ込むくらい美味しかった。

「ここにいる間は、お前も街のルールにならって、仕事をしなきゃいけねえんだ。
 リッチもこの街の保安官じゃねえのに、保安官の仕事してただろ。
 明日ボスの所に挨拶しに行くからな。ボスは凄まじいぞ、覚悟しとけ」

「うん、分かった」

 怖いけど、僕はこの街のボスを見てみたかった。

「ボス見て失神するなよ。オレはした」

 イングウェイはあくびをすると、革のソファーに横になって寝てしまった。

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