「ただいま」
香水臭い廊下を早足で通り過ぎ、自分の部屋に入った。CDショップで貰ったイングウェイのポスターが、歪んだ笑顔で僕を見ている。僕も負けじと眉間にシワをよせ、歯を剥き出しにして挑発仕返した。
ポンコツのラジカセでのびかかった『HELL/HOUND』のテープを流す。イングウェイの金切り声と、双子のアーク兄弟のツインギター。紅一点のレベッカのベースと、巨漢ハイドリヒの爆音ドラムから始まる一曲目は、笑えてくる程かっこいい。
ベッドの上に投げ出した、使い古しで真っ黒なスケッチブックをめくる。へんてこな絵ばっかりだ。 僕にはイングウェイみたいな才能はないみたい。僕はクロッキーで、コンクリートの壁にイングウェイの落書きをした。
青い吊り目、自己主張の強い摩訶不思議な髪型。全身に鋲が付いてる奇抜なファッション。ハンサムな顔なのに、イングウェイはいつも卑屈な表情をしている。地獄の猟犬というバンド名。死刑になったイングウェイは、地獄の犬に食べられたのだろうか。僕は悲しくなって、イングウェイの落書きにも涙を描いた。
「あら、アンタ帰ってたの」
母さんがバスローブ姿で部屋の入り口に立っている。
僕は落書きに夢中で、母さんが部屋に入ってきた事に気付かなかった。
「アンタ今日、給料日でしょ。金出しなさいよ」
母さんは長い睫を伏せて気だるそうに長い髪を掻き、僕を見ようともしない。
「母さんに渡したって、どうせ酒代にするんでしょ。少しは自分の体のこと考えなよ」
ムッとした表情のまま、僕は母さんに言った。
「余計なお世話だよ。 いいから出しな、客にやり逃げされてムシャクシャしてんだよ!」
母さんの大きな目が吊り上がる。片手に持った細い酒瓶で、僕の頭を思い切り殴った。
衝撃と、母さんのきつい香水の匂いで頭がクラクラした。
「……!」
痛みのあまり、その場にうずくまる。
その間に母さんは、机の上に置かれた僕の財布から紙幣を全て抜き出していた。
「父親も分からない子供産んで面倒見てやってるんだから、少しはありがたく思いなさいよ。
いちいち口答えして、本当に可愛くない子だね」
吐き捨てるように言うと、空になった財布を僕の頭に投げてきた。
「ったく、まだこんな人殺しの歌なんか聴きいて……」
母さんはそう言うなり、ラジカセをテーブルから叩き落とした。
ノイズと一緒に、イングウェイの声が歪んで消えた。
母さんが出て行った後、僕は部屋を飛び出した。行き先なんてない僕は、足が動くままブルータルシティの路地を走った。街や自分を取り巻く環境が嫌になったんだ。大好きなヒーローは人殺しで、たった一人の肉親に金をたかられる。好きな事が一つだけあるけど、僕には一握りの才能もなく、僕はどんな大人になるんだろう。先の見えない僕自身と、目を開けて見えるもの全てが嫌だった。
気付くと足が道を覚えているバイト先のCDショップにいた。
僕は無意識に、ワゴンに並んだ『HELL/HOUND』のCDを手を伸ばしていた。
「どうしたボーズ、それ買いに戻ってきたのか?」
店長が僕に気付いて、大きな体で僕を見下ろしながら言った。
我に返った僕は、この場から逃げ出したくなり、CDを持ったまま店の外へ駆け出していた。
「おい、待て!」
店を出てすぐの所で、店長と周りの人間に捕まった。
「バカ野郎め、何考えてんだおめえは!!」
店長に思い切りげんこつされた。
「店長、僕を保安官に突き出してよ。
牢屋にぶちこまれたほうが、この街にいるよりよっぽどましだよ!」
僕は涙と鼻水をみっともなく垂らしながら言った。
「甘ったれるな!」
僕は店長に首の根っこをつかまれ、店の奥まで引っ張って行かれた。
店長は軋むイスに、僕を無理矢理座らせる。
「いいかボーズ。おめえはこの街では運がいい人間だ。
ろくでなしだが親がいて、喰わせてもらってんだろ。
この店みてえに、安月給だが雇ってくれる稼ぎ口だってあるだろうが。
給料が安いのはお前がガキだからだ。けどガキの小遣いなら文句ねえ額だろ。
比べてスラムのガキ共見てみろ。
今日喰うもんにも困って残飯漁って、この街じゃ親のいない奇形児は酷え扱いを受ける。
一生スラムで罵倒されながら、人目を避けて隠れながら過ごす。
お前が憧れてるイングウェイは、あの掃きだめみたいなスラムに捨てられて 、
逆境をバネにしてミュージシャンになったんだ。
こんな事で自分を見失うようじゃ、お前は一生イングウェイみてえにゃなれねえぞ」
店長が僕の鼻水をくすんだタオルで乱暴に拭った。
僕は店長に何か言いたかったけど、嗚咽で言葉にならない。
「どうしました」
騒ぎが耳に入ったのか、猟銃を二丁携えた若い男が店に顔を出した。保安官のブルータル・リッチだった。街でやましい事のある人間は、リッチに怯えながら生活している。問題を起こせば即、二丁の猟銃で大穴を開けられ、留置所送りにされるからだ。やましい事をした僕の心臓は、リッチを見た瞬間に跳ね上がった。
「おお、保安官。なんでもねえんだ。
このボーズが給料安いとか文句つけてくるもんだから、ケンカしちまってな」
店長は意味もなく万引き行為をした僕をかばってくれた。余計涙が止まらない。
「そうですか」
カウボーイ風の格好をしたリッチは、自分のカウボーイハットを取り僕の頭にかぶせた。
「家まで送るよ。そんなベソっかき顔で路地に出たら、追いはぎ集団のカモにされるからね」
黒いゴーグル越しに、リッチの優しそうな目が見えた。
「頼む保安官。オレはそろそろ店じまいだ。明日からまた真面目に働けよ、ボーズ」
店長はまた太い腕で、僕の頭にげんこつを喰らわせてきた。脳が揺れ、ふらつく足どりで、僕はリッチと一緒に店を出た。熱を持った泣き顔が夜風で冷やされ、急に目が覚めた気分になる。
「君、キャメロットさんとこの坊やだろ。家はこっちだったよね」
暗くなった路地に出ると、リッチが隣を歩きながら言った。
「……帰りたくない」
僕は歩く速度を落とした。
「どうして。お母さんが心配してるよ」
リッチはそんな僕を促すように、少し前を歩きながら言う。
「しないよ、僕の心配なんか」
僕とリッチの距離が広がると、リッチは足を止め、僕の傍まで戻ってきた。リッチは無言で僕を見ている。ゴーグルに覆われた目は暗闇にとけ込み、困っているのか、怒っているのか、表情からは全く分からない。気まずい空気に萎縮して、僕の足はどんどん重くなる。重苦しい沈黙の中、僕はリッチの帽子から漂う血の匂いに気がついた。『ブルータル・リッチ』が目の前にいて、僕を無言で眺めている。そう考えるとますます緊張して、体が石のように固くなっていく。
「……人の境遇は様々だしね。全ての親が模範的とは限らないか。
じゃ、帰りたくなるまで、私と話でもしようか。
どうも私は、街の子供達から怖がられてしまうんだが、こう見えても子供は好きなんだよ。
昔は学校の先生になりたかったくらいだからね」
リッチが、冗談なのか本気なのか判断できない口調で言う。簡単な自己紹介の後に、リッチは自分のことを話し始めた。子供に怖がられるって、それは当たり前だ。僕はリッチの話を聞くほどにそう思った。保安官リッチは、一見礼儀正しく物腰も柔らかい。
でも街で事件が起きた際、リッチが見せる姿はブルータルそのものだ。手にした二丁の猟銃で、悪人に容赦なく銃弾をぶち込みながらバイクで執拗に追いかけ回す。だが、手錠をつける手首だけは綺麗にしておく。
「死体に手錠がついてないと、私が人殺しに見えるだろ」
血塗れになった悪人の綺麗な手首に、リッチは手錠をかける。それをバイクで引き摺りながら、リッチは保安官事務所へ帰っていくのだ。返り血にまみれた保安官が、手錠を掛けた死体をバイクに乗せ、街を疾走する姿。遠目にも異様な光景で、リッチがバイクで通った道には赤黒い血痕が生々しく残されている。
リッチが以前いた街で、その業務態度を問題視され裁判沙汰になったらしい。有罪判決の代わりに、ブルータルシティに飛ばされたのだとリッチは言った。それでもリッチは、自分のどこが異常なのかわからないそうだ。
「民間人に危害を加える恐れがある人間は、早く黙らせるにこしたことはないだろう。
ちゃんと対象物によって処置の度合いも決めてるってのに、何が不満なんだか」
リッチは真顔でそんなことを言う。ブルータルシティは、治安を守る保安官さえブルータルだ。この街の住人は畏怖の異を込め、リッチを『ブルータル(残虐)・リッチ』と呼んでいる。街中で恐れられるリッチは、僕に「子供が心を開いてくれない」と言った。
目の前の保安官は、意外と寂しがり屋なのかもしれないと思うと、緊張が少しほぐれた。
「僕の事なんか聞いても、おもしろくないと思うよ
ただのアッサムで、特に変わったあだ名もないし……」
僕の話を求めてきたリッチに、この街生まれのミュージシャン、イングウェイのファンであること、絵を描くのが好きな事などをポツポツと話したら、意外なほど話が弾んだ。リッチはとても聞き上手だった。
「イングウェイに、会いたいかい?」
歩きながら、リッチが冗談ともつかない口調で言った。
「リッチは、イングウェイが死刑になった事、知らないの?
会いたくても、もう地獄の釜で茹でられちゃってるよ」
僕は苦笑いでリッチに言った。
「イングウェイは生きてるよ。ギルティタウンでね」
リッチが真顔で言った。
「そんなわけないじゃん。ギルティタウンなんて聞いたことないよ」
僕は疑いの眼差しでリッチを見る。気が付くと、目の前には僕の家ではなく、保安官事務所があった。
「大罪を犯した者は、表向き死刑という事になってるが、
ギルティタウンという街に収容されているんだ。
住人は全員、死刑判決を受けた罪人のみ。
そんなバカみたいな街が、ブルータルシティの地下にあるんだよ」
リッチは保安官事務所に僕を迎え入れ、地下へ続く階段を下りながら言った。
「ウソだ、そんな街あるわけないよ」
僕はキョロキョロと薄暗い周りを見回しながら、リッチに続いておっかなびっくり階段を下りた。
「ウソじゃあないよ。見れば分かるさ」
地下室に入ると、リッチは髑髏の彫刻が施された鋼の扉をコンコンと叩きながら言った。
「僕にそんなもの見せていいの?」
淡々と喋るリッチは、後で僕を殺すつもりではないかという恐ろしい考えが浮かんだ。
「世界一ブルータルな街の、世界一ブルータルな保安官の私はね。
有罪者の街、ギルティタウンの門番なんだよ。
街を非行に走りかけた人間に見せると、自己意識が変わり、犯罪喚起の抑止力になりえる。
私の判断で、街を犯罪者予備軍に公開する義務があるんだ」
リッチが胸ポケットから鍵を取り出し、錠に当てはめ、ガチャガチャと音を立てながら言った。
「なんだよそれ、僕が犯罪者になるって言いたいのか!」
僕はムッとしながら、リッチに言った。
「おやおや、身に覚えがないのかな?君はさっき、CDを一枚万引きしただろう。
感情的に悪事を犯す子は危ない。一回目で止めないと後々やっかいでね。
店長が庇ったから追求しなかったが、私は君の行動と、店長のやりとりを最初から見ていた。
君は生きることに嫌気が差してしまったんだろ。
若いから指針がぶれて脱線してしまうのも分かるが、
店長の優しさに甘えて、それを言い訳にしていいと思ってはいけないよ。
君が脱線しないよう、軸を持って生きるにはどうしたらいいか。
君に必要なのは、『憧れる人間の人生に触れ、自分の生き方を見直す事』だと私は思った。
で、この街で生きるイングウェイを見たら良い刺激になるんじゃないかと思ったんだ。
それから、もうお世話になってる店で、万引きなんかしちゃあいけないよ、アッサム。
私もお説教は好きじゃないからね」
最後は少しだけ強い口調で、リッチが重い扉を開けた。急に罪悪感に襲われて、店長の顔が頭に浮かぶ。リッチは僕にこの事を伝えたくて、僕を家に送って行くと言ったんだろうか。
「ごめんなさい保安官。もう二度と、あんなことしないよ」
リッチに謝るなり、急に惨めな気分になった。僕はなんて馬鹿な事をしてしまったんだろう。僕が周囲の環境を嫌になったって、僕の周りには優しい人だっているじゃないか。その優しい人に僕は迷惑を掛けたんだ。
「同じ言葉を明日、店長にも言うんだよ。さあ行こうか」
僕がリッチに向かって謝ると、リッチはにっこりと笑って、目の前に広がる薄暗い回廊を指さす。扉をくぐり、薄暗い不気味な回廊を抜けると、おどろおどろしい街が見えた。どんよりとした、ブルータルシティに似た雰囲気の街。鉄と鋼に支配され、派手なネオンがいたる所で輝いている。 街を行き交う人々は一癖ありそうな人物ばかりだった。
「凶暴そうな人達がいっぱいいるのに、入り口にちっちゃい鍵一つ掛けただけでほっといていいの? そのうち誰か逃げようとしてあの扉を壊しちゃうんじゃないの?」
僕は不安になり、リッチに聞いた。
「逃げようとする? それはないね。
連中は街の生活に満足しているから、その考えはないようだよ」
リッチは笑いながら言った。そうこうしているうちに、街の往来で喧嘩が始まる。
「どこ見とんじゃ、オオォ!?」
「ぶつかったら謝れやハゲッ!!」
典型的な脅し文句で、殴り合いに発展する。さすがは死刑判決を受けた人達というべきか、壮絶な殴り合いだ。挙げ句、お互いに刃物を取り出し、周囲を巻き込み乱闘騒ぎになる。
「しょうがない連中だな 」
リッチは二丁の猟銃を構え、殴り合いを続ける二人の猛者に近づいていった。
「保安官が何の用だよ、すっこんで……」
言葉の途中、リッチは既に二人の腹部を三連装の猟銃で撃ち抜いていた。四回銃声が聞こえたので計12発、鉛を腹に撃ち込まれ血飛沫が上がる。雑巾を裂くような悲鳴を上げて、二人は地べたに転がった。
「殺すぞ」
リッチが転がる男達を一瞥して言った。
殺す気で撃ったとしか思えなかったので、そうではなかった事に僕は驚いた。
「こんなのは日常茶飯事でね」
リッチが振り向きざま僕に微笑んだので、反応に困った。
「こんなの繰り返してたら、住人みんな、死んじゃうんじゃないの?」
僕はもっともな指摘をする。
「いやいや大丈夫、そろそろ来ると思うから」
その時、露出度の高いナース服を着た美女が、二人乗りのスクーターに乗ってやってきた。
助手席には山羊頭のマスクを被り、白衣を着た小柄な不審者が乗っている。
「またバカのケツの穴を増やしたのかい、クソ野郎!」
二人は看護婦と医者らしかった。看護婦がスクーターに積んだ火炎放射器を噴射させ、周囲の滅菌を始める。 山羊頭の医者は、無言で大男の服を剥ぎ取り、麻酔針を思い切り腹に突き刺した。
「痛ッてェェェッ!」
怪我をした大男二人が悲鳴を上げる。 山羊頭の医者はエタノールを浴びせた両手で、傷口を容赦なくこじ開けた。銃弾を男の腹からほじくり出すべく、ピンセットで豪快な摘出作業に取りかかっている。
「ま、麻酔、き、効いてないって、ウギャアアアア!!」
一方看護婦は、ナイフで切り裂かれた患部をもの凄い勢いで縫合していく。
血飛沫が飛び交う光景に、僕は目を覆った。
「ドクター、残りあと三個ッ!」
美人看護婦が両手を叩き 、腹からほじくり出した弾丸を数え、バーナーを点火した。赤銅色に熱の帯びたそれを、 穴のあいた大男の傷口に焼き付ける。 生々しい弾痕が見事に塞がれていくが、周囲に人肉が焼ける匂いが充満して吐きそうになった。
「治療完了」
山羊頭の医者が低い声で言うと、血の付いたピンセットをトランクにしまった。大男二人の財布から紙幣を失敬し、リッチに軽く会釈すると、立ち去ろうとした。
「クソ保安官、そこの坊やも犯罪者予備軍なわけ?」
帰りたそうな山羊頭の医者を後目に、看護婦が僕に近づいてきた。
この人の顔、どこかで見た事があるような……。
「ア、アンジェラ=ディスゴージ!!」
映画の撮影中、共演者をメスで切り裂き死刑になった、殺人女医を演じた女優。
目の前の美女に向かって、僕はかつての有名映画女優の名前を叫んだ。
「あら嬉しい、あたしの事知ってんの? 関心な坊やね。
この街で怪我したらあたしの病院においで、格安で面倒見てあげる」
美貌の看護婦が僕の頬にキスしたので、顔が真っ赤になった。
「アンジェラ、ショッピングストリートで怪我人だ」
山羊頭の医者が探知機を見ながら、アンジェラに向かってボソッと呟く。
「はいよ、ドクター!
今日は八百屋のバカがヴォーヴォー歌ってるもんだから、怪我人がやたら多くてね」
看護婦は悪態をつくと、医療道具一式が入ったトランクをスクーターに積む。山羊頭の医者がのっそり助手席に収まると、スクーターは煙を上げて商店街へ消えた。僕はその様子を唖然としながら見守っていた。傍らで倒れていた怪我人の大男二人がむくっと起きあがる。 傷はすっかり癒えているようだ。
「カーカスとアンジェラが、あなた方の治療をしてくれましたよ」
まだ麻酔が効いているのか、ボーっとした目つきの二人組に、リッチが声を掛ける。
二人はリッチの顔を見るなり、悲鳴を上げて逃げていった。
「さっきの大男は二人組は強盗殺人犯、アモット兄弟。
頭が弱いんで、兄弟でもめ事ばかり起こすんだよ。いつか殺してやる」
リッチが無表情で言った。
「犯罪者の街にも、医者はいるんだね」
僕は先程の光景に驚いていた。
「ドクターカーカスは患者の身体で人体改造を繰り返した人でなしだが、ここでは真面目に働いてるよ。殺人女優アンジェラも、カーカスに医療技術を教わり看護婦として頑張ってるしね」
リッチが忌々しそうに言った。
「なんで真面目に働く気になったんだろう」
僕は首を傾げた。
「この街には、一つだけルールがあるんだよ。
『自分に与えられた自分だけは何がなんでもこなす』
これだけ。違反した者には、この街の主が直々に制裁を加える。
カーカスとアンジェラに与えられた仕事は、「住人を死なせない」こと。
だからあの二人は、いつも命がけで仕事してる。
それだけ、街の主が恐ろしい人物だからなんだけどね」
リッチが笑いながら言った。 じゃあHMバンドのフロントマンだったイングウェイは、この街で何をしてるんだろう。カーカスとアンジェラが向かった通りから、聞き覚えのある騒音が聞こえてきた。
「イングウェイの曲だ!!」
僕は脇目もふらず、音のする方向へ駆け出す。
リッチが走り出す僕に何かを叫んでいたけど、僕の耳には全く入っちゃいなかった。