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第十四話 鋼輔編プロローグ

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 水上都市の熱帯夜。王都コロシアム。熱気あふれる死合場が、今夜は静まり返っている。戦いは行われていた。夜明けまで続く、護龍の王を決める決戦。

 護龍の皇帝である漆黒の鎧を纏った重騎士・皇帝(テオ=テスカ)に対するは、黒装束姿の凛とした少年──刃鋼輔(やいばこうすけ)。皇帝は巨大な魔剣、ブレードギア・テスカベトレスカを。鋼輔は大柄の退魔刀、ブレード・ギア・伶龍を握っている。

 夜の一刀。皇帝の一手。張りつめた空気の中、目にも留まらぬ鋭刃の一閃が空を斬る。伶龍が放つ必殺の白刃と打ち合い、打撃のインパクトで火花が散った。

 皇帝の猛攻を受け、鋼輔は手にした退魔刀、伶龍を硬く握り締める。もう一度、己の一撃必殺、無拍の太刀の予備動作に入った。皇帝の急所を狙い、音速の太刀を繰り出す。無の太刀は光を纏い、明の一刀となる。皇帝は伶龍の白刃に向けて、大振りの凄まじい剣戟を放ち、鋼輔の一撃必殺を相殺する。

 拮抗する技量。ぴたりと合った呼吸。互いの剣に込められた無私の心。

 剣の為だけに紡がれる一手。これほどの太刀を振るうのに、相手は一体いかほどの時間をかけ鍛練を積んできたのか。剣戟が続くほど、渾身の一刀をぶつけあうほど、相手の剣と剣に刻んできた己だけの時間を、互いに理解する。命を賭けた斬り合いは、円舞のように延々と続いた。

 鋼輔は皇帝の剣に、深い夜を見た。夜。鋭い剣戟は夜の如く深い。
 皇帝は鋼輔の剣に、暁の日を見た。暁。閃乱の一刀は暁の如く眩い。

 お互いに相殺しあう必殺の一刀。

 王都の夜は明けつつあった。暁が夜を追いやり、コロシアムへ朝日が差し込む。夜の騎士、皇帝の剣の切っ先が鈍る。大振りの処刑大剣テスカベトレスカは威力と引き換えに体力を消耗する。一晩中の斬り合いで、重装備の鎧を纏った夜の王は疲弊していた。だが鉄仮面から覗く、鬼火のような紅い双眸は闘志を失っていない。

 次の一手で決着はつくだろう。一手の先に、立っていた方が護龍の王となる。

 護龍を統べるのは、夜の王か。暁の王か。
 コロシアムの聴衆は静まり返り、新たな王の誕生を決める決戦を見守る。

 鋼輔は護竜でできた人々の関係のために、皇帝と戦っている。だが今は皇帝との死合に魅了されているかのように、ただ己が放つ一手に全神経を集中させていた。鋼輔は決意と共に叫ぶ。

「我が蒼刃──伶龍に斬れぬものなし!」
「砕けテスカベトレスカよ! 紅き断刀の前に──露と散れ!!」

繰り出される蒼(あお)と紅(あか)の残像──渾身の一閃が火花を散らしてぶつかり合った。

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